【脊椎圧迫骨折】ちゃんと説明できますか?
病院で働いていると、「圧迫骨折」という言葉をよく耳にします。
保存加療だから離床はゆっくり
とか
新規じゃないから痛みに合わせて
なんて指示を整形ドクターからもらったりします。
文字通り痛みに合わせてADL練習をすればいいのですが、それだけではまだ知識が浅いと思います。
そのため今回は、医療者向けに脊椎圧迫骨折を、病態から治療まで簡単に説明いたします。
解剖学的な特徴
背骨の骨折は、長管骨と違ってつぶれるような骨折を起こします。
枝がポキッと折れるようなイメージではなく、おまんじゅうが潰れるようなイメージとなります。
逆にわかりにくいですかね(笑)
高所からの転落など高エネルギー外傷による破裂骨折もありますが、高齢者にみられる骨粗鬆症による圧迫骨折が大多数を占めます。
立ったり歩いたりしているうちに、背骨に上からの圧力がかかって骨折してしまうということですね。
ここら辺は、何となくわかると思います。
脊椎圧迫骨折は、大腿骨近位部骨折とは違って転ばなくても骨折を起こします。
これが厄介なんですね〜
知らず知らずに圧迫骨折だったなんてことも少なくありません。
骨折部位は胸椎と腰椎の間(胸腰椎移行部)が最も多く、
次に下部腰椎、中位胸椎が続きます。
もっと具体的に示すと、
Th12,L1>L4,L5>Th8,9
こんな感じでしょうか
Th=胸椎
L=腰椎
と変換してくださいね。
椎体がつぶれて扁平になると、身体の重心が前方に移動してさらに椎体をつぶそうとします。
一度崩れると椎体が潰れやすくなってしまうということです。
受傷機転・患者の特徴
先ほどのお話と重複してしまいますが、高齢者の脊椎圧迫骨折は、基盤に骨粗鬆症があります。そのためつまずいただけでも骨折を起こし、ときには転倒しなくても骨折が起こります。
女性に多くみられ、日本では50歳以上の女性が椎体骨折を起こす確率は37%と推定されています。70歳以上で発生率は急に上昇します。
ここら辺は女性ホルモンのバランスも関係してくるため、高齢の女性でハイリスクとなってしまうのはしょうがない部分もあります。
一度椎体骨折を起こすと、骨密度が高くても次に骨折を起こす確率は、骨密度が低い群より高くなります。
そのため重要なのは、最初の圧迫骨折を予防することとなります。
特徴的な症状や臨床所見
急性期は骨折部周辺の腰・背部痛を認め、体動時痛がひどくて寝返りもできずに介助が必要な場合が多くみられます。
X線像では楔状(くさびじょう)変形をきたしますが、判断がつかない場合はMRIが有効です。
X線やMRIの使い分けに関しては、以前こちらの記事で簡単に説明していますので、ご覧になってみてください。
ちなみにですが、椎体圧迫骨折は圧迫の仕方で3種類に分かれます。
写真はこちらになります。
★楔状椎
→椎体の前縁の高さが減少、AP<0.75
★魚椎
→椎体の中央がへこむ変形、CIA<0.8or C/P<0.8
★扁平椎
→椎体の全体にわたって高さが減少する変形、上位または下位椎体と比較してA,C,Pおのおのが20%以上減少
楔状椎:前が低い
魚椎:真ん中へこんでる
扁平椎:全体的に潰れてる
こんな感じで覚えられればいいかなと思います。
また、関連痛として下腹部痛や前胸部痛を訴えることや転倒した当初は歩けていても、日ごとに疼痛が増して歩行不能となることがあります。
だんだん痛みが強くなってきて、救急車を呼んだ
なんてことをおっしゃる方は多いです。
転倒による圧迫骨折では麻痺性イレウスを起こすことがあり、食欲不振、便秘、腹部膨満などに注意します。
当たり前ですが身長は縮みます。
本当かわかりませんが、私の担当した方で19cm縮んだって人がいました。
ほんとかいって突っ込みそうになりましたが、全然あり得ます。
見えてる景色違っちゃいますよね…
診断
診断は骨折椎体の棘突起の叩打痛とX線像による椎体のつぶれを観察しますが、初期にははっきりしないことも多々あります。
新鮮例か陳旧例か、つまり最近できたものか昔からあるものか、の区別がつきにくく、その場合はMRIが非常に有用となります。
MRIでは新鮮例では、T1 強調像で低信号、T2強調像で高信号を呈します。
偽関節例では椎体内に液体貯留がみられ、T2 強調像にて高信号を呈します。
レントゲンで圧迫骨折の有無を確認
↓
最近の骨折なのか、MRIでチェック
この流れをしっかり覚えましょう。
保存的加療
脊椎圧迫骨折は、まず保存的治療が行われます。
疼痛が強く歩行困難なときは、ベッドにて安静・臥床が必要な場合が多くみられます。
歩行させるには体幹の外固定が必要であり、体幹ギプス固定か体幹装具装着が必要となります。
体幹ギプスは強固な固定で便利ですが,入浴ができず、心臓病や喘息など内科疾患があると使用できません。
体幹装具は広く用いられており、硬性と軟性コルセットが一般的です。
胸腰椎移行部や腰椎の圧迫骨折では、硬性コルセットが理想ですが、硬性コルセットは不快感を訴える方が多いのも現実です。
患者が不快感を表す場合は、コルセットの装着だけ医療者が行ったり、5分程度の座位ならつけなくても良いなどと条件をつけたりします。
保存的加療で注意したいのが、長期の臥床による廃用性の筋力低下ですね。
高齢者の寝たきりの原因の一つとなっています。
リハビリ職は、痛みのない範囲で、出来るだけ手足の運動をしていただくように運動療法を行います。
安静・臥床中も腸腰筋と大腿四頭筋を強化する筋トレを指導し、空いた時間に行うことができる自主トレも行っていただくとベストです。
また骨折の治療とともに行う骨粗鬆症の治療も忘れてはいけません。
保存的加療で痛みをコントロールしつつ、次の圧迫骨折に備えなければいけません。
手術的治療
硬性コルセットを装着しても疼痛の改善が得られないときや、椎体圧潰が進行し椎体不安定性がみられ遅発性脊髄・神経症状を呈したとき、骨折が治りきらずに偽関節になったときには手術を行います。
つまり保存的加療で改善ができなかった時ととらえていただいて構いません。
近年は低侵襲手術として椎体形成術が行われています。この手術は、椎体内に人工骨や骨セメントを注入し椎体圧潰を防止し、疼痛を早期から取り除いて日常生活動作が行えるようにするものです。
PVP(Percutaneous vertebroplasty)とか、BKP(Balloon Kyphoplasty)とかって話があったら、椎体形成術をするんだなと思っていればいいと思います。
麻痺症例では脊椎後方短縮術や前方脊柱再建術も行われます。これらは高齢者には手術侵襲が大きい点が問題ですので、手術するかどうかの判断は非常に難しいです。
そもそも胸椎や腰椎の手術はリスクが高いので、確実に除痛が得られる場合や緊急を要する場合以外は、かなり慎重に検討します。
整形ドクターとしては、リハビリでなんとかなるならなんとかしてほしいと思ってしまうのが、心情なんですね…
まとめ
・脊椎圧迫骨折は、骨粗しょう症が原因による場合が多く、転ばなくても骨折する
・骨折部位は胸椎と腰椎の間(胸腰椎移行部)が多い
・椎体の潰れ方は楔状椎、魚椎、扁平椎の3種類がある
・レントゲンで圧迫骨折の有無を確認した後に、最近の骨折なのかMRIでチェックする
・保存的加療で歩行させるには、体幹ギプス固定か体幹装具装着が必要となる
・保存的加療で改善が見られない場合は椎体形成術を行う場合がある
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参考文献
南里泰弘(2012):整形外科疾患 早わかり図鑑 上肢・脊椎編 脊椎圧迫骨折,整形外科看護,vol.17,no.4